う言はれるまでもなく、眠つちやあゐない。うちの郎党《わかもの》どもは、昨夜のうちに鹿砦を十二まで設けたのだ。今に波蘭の雑兵どもには鉛の梅干をふるまひ、貴族たちには棍棒を喰はせて、一舞ひ舞はせてくれるわい。」
「で、お父さんはそのことを知つてゐるでせうか?」
「その舅《おやぢ》さんが俺の頭痛の種だて! 俺は今だにあのひとの根性を突き止めることが出来ないのだ。どうせ外国では、いろんな罪を犯して来たことだらうが、ほんとに、何だつて、かれこれひと月にもなるのに、一度も堅気な哥薩克らしい陽気な顔を見せないのだらう? 蜜酒さへ嫌つて飲まないのだ! いいかえ、カテリーナ、俺が*ブレストの猶太人からぶんどつて来た蜜酒さへ飲まないんだよ。こら、若者!」と、ダニーロは叫んだ。「穴倉へ一走《ひとつぱし》り行つて、猶太の蜜酒を持つて来い! それに火酒《ウォツカ》も飲まないんだ! 変てこな話さ! 主、基督をすら、あのひとは信じてゐないらしいよ、カテリーナ。ううん? お前はいつたい、これをどう思ふ?」
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ブレスト 正しくはブレスト・クヤフスキイと言ひ、波蘭ワルシャフスカヤ
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