ザポロージェ人たちは一斉に床の上に平伏して、異口同音に『御免なされませ、陛下! 御免なされませ!』と、叫び出した。
鍛冶屋は何のことやらさつぱり分らぬままに、恐ろしく躍起になつて、やはり自分も床の上に這ひつくばつてしまつた。
「お待ち!」さういふ、威あつて猛からぬ、いとも爽やかな声が彼等の頭上で聞えた。一二の宮内官があわててザポロージェ人たちの肩を揺ぶつた。
「畏れ多うござりまする、陛下、起つことはなりませぬ! 金輪際、起つことはなりませぬ!」とザポロージェ人たちが叫んだ。
ポチョームキンは唇を噛んだ。つひに自身でザポロージェ人の一人に近づいて、命令的に何か囁やいた。と、ザポロージェ人どもは起ちあがつた。
ここで鍛冶屋は勇を鼓して顔をあげた。と、彼の眼前には、髪白粉をふりかけて、少し肥りじしの、背の低い婦人が、碧いろの眸に鷹揚で、にこやかな眼差を見せて佇んでゐた。その眼差には、何ものをも屈服せしめずには措かぬ威厳がそなはつてゐて、これこそ雲上の位にある女性にのみ特有のものであつた。
「伯爵が今日、妾がまだこれまで知らなかつた御身たちに会はせると約束されたのぢや。」と、碧い眼の貴婦
前へ
次へ
全120ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング