袗《カフターン》を著た貴公子先生からはもう、すつかり音沙汰がない。いつかみんなを相手に喧嘩をして以来、てんでわれわれの村へ寄りつかなくなつたのぢや。さうさう、あれはまだお話しなかつたかな? いや、とても滑稽な出来事がありましたのさ。去年の、なんでも夏頃のこと、さうぢや、ちやうどわしの名附日の祝ひの当日だつたと思ふが、うちへお客がぞろぞろやつて来たのぢや……(茲で一言申しあげておかねばならないのは、有難いことに、土地《ところ》の衆が忘れもせずにこの老人のわしをちやんと訪ねて呉れることなんで。わしが自分で名附日の憶えがあるやうになつてから、もう五十年からになるが、わしの年齢《とし》が正確に幾つなのか、それは当のわしも、うちの婆さんも、はつきりしたことは申しあげ兼ねる。何れにしても七十歳間近にはなる筈ぢや。ディカーニカの祭司ハルラムピイ師に訊けばわしの生年月日もわかるのぢやが、惜しいことに、もう五十年も前にこの人は亡くなつてしまつたのぢや。)それは扨、お客に来てくれた連中は、ザハール・キリーロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ・チュホプペーニコだの、ステパン・イワーノ※[#濁点付き片
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