いな物を拵らへて御恐悦なんだからなあ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、かうぢや。まことに尤もな話で、もう疾《とつ》くに楽隠居でもして落ちついてゐるのがほんたうぢやて。ひよつとすると、親愛なる読者諸君は、わしがこんなことを言つてわざと老人《としより》ぶつてゐるのだとお思ひかも知れんが、どうしてどうして、口に一本の歯も無くなつた今日、何を好んで老人ぶることがあらう! この頃では何か柔かいものにでもあたれば、まあ、どうにか食へもするが、ちよつと固いものにでもぶつかつたら、てんで噛み切ることも出来ませんのぢや。兎も角、またこの本を一冊お目にかける! が、どうか頭《てん》からこきおろしたりはしないで頂き度い! 別れ際に悪口を浴びせるのは宜しくないことぢや、殊に何時また会へるやら知る由もない相手にむかつては尚更のことぢや。さて、この本では、ひとりフォマ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチを除けば、殆んど諸君にとつて新顔の話し手ばかりの物語を御披露する次第ぢや。あの、よほどの才子や莫斯科人の大部分にもちよつと呑みこみにくいやうな気障な言葉づかひで話をした、例の豌豆いろの長
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング