と眺めながら心の中でつぶやいた。それから今度は反対側へ小首を傾げて、横側から鼻を眺めた。【へへえ! 実際、考えてみるてえとなあ、まったくどうも。】と心でつぶやきつづけながら、彼は長いあいだ鼻を眺めていた。が、やがて、そっとできるだけ用心ぶかく二本の指をあげて、鼻のさきを摘もうとした。こうするのがそもそも、イワン・ヤーコウレヴィッチの方式であった。
「おい、こら、こら、何をするんだ!」と、コワリョーフが呶鳴りつけた。イワン・ヤーコウレヴィッチはびっくりして両手をひくと、ついぞこれまでになく狼狽してしまった。が、やがてのことに、注意ぶかく顎の下へ剃刀を軽くあてはじめると、相手の嗅覚器官に指をかけないで顔を剃《あた》るということは、どうも勝手が違って、やり難かったけれど、それでもまあ、ざらざらした親指を相手の頬と下|歯齦《はぐき》にかけただけで、ついに万難を排して、ともかくも剃りあげたものである。
 それがすっかり片づくと、コワリョーフはすぐさま大急ぎで衣服を改め、辻馬車を雇って真直に菓子屋へ乗りつけた。店へ入るなり、彼はまだ遠くから、「小僧っ、チョコレート一杯!」と呶鳴ったが、それと同時に
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