もとの座に据えなければならないのだ。
【もし、くっつかなかったら、どうしよう?】
こう我と我が胸に問いかけた時、少佐の顔はさっと蒼ざめてしまった。
名状し難い恐怖を覚えながら、彼はテーブルの傍へ走りよると、うっかり鼻を斜めにくっつけたりしてはならぬと、鏡を引きよせた。両手がブルブル震えた。彼は用心の上にも用心をしながら、鼻をそっと、もとのところへ当てがった。けれど、南無三《なむさん》! 鼻はくっつかないのだ!……彼はそれを口許へ持って行って、自分の息でちょっと暖めてから、ふたたび、頬と頬との中間の、つるつるしたところへ当てがった、が、鼻はどうしても喰っついていない。
【さあ、これさ! ちゃんと喰っつかないのか、馬鹿野郎!】と、彼は躍起になってぼやいたが、鼻は木石のように無情《つれな》く、まるでコルクみたいな奇妙な音をたててはテーブルの上へおっこちるのだった。少佐の顔はひきつるように歪んだ。【どうしてもくっつかないのかなあ!】と、彼はあわてて口走った。けれど、何度それを本来《もと》の場所へ当てがってみても、依然として、その躍起の努力も水泡に帰した。
彼はあわただしくイワンを呼んで、
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