きりに礼拝している。
「もし、貴下《あなた》、」と、コワリョーフは無理にも心を鞭打って、「あの、もし貴下《あなた》……」
「何か御用で?」と、鼻が振りかえって答えた。
「わたくしには不思議でならないのですよ、貴下《あなた》……どうも、その……。御自分の居どころはちゃんと御存じのはずです。それなのに、意外なところでお目にかかるものでして、いったいここはどこでしょう? お寺ではありませんか。まあ、思ってもみて下さい……」
「どうも、おっしゃることが理解《のみこ》めません、もっとはっきりおっしゃって下さい。」
【どう説明したものだろう?】と、コワリョーフはちょっと考えてから、勇を鼓してこう切りだした。「もちろん、わたくしはその……。それはそうと……。どうも、鼻なしで出歩くなんて、そうじゃありませんか、これが、あのウォスクレセンスキイ橋あたりで皮剥ぎ蜜柑《みかん》を売っている女商人か何ぞなら、鼻なしで坐っていても構わないでしょうがね。しかし万々のまちがいもなく今に知事の口にありつかれようとしている人間にとっては、その……。いや、わたくしには何が何やらさっぱりわからないのですよ、貴下。(こう言い
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