て、おれは西班牙へ來てしまつた。それがまた、あんまり出し拔けだつたので、おれは夢に夢みる心持だ。けさ西班牙の使節がやつて來たので、いつしよに場所に乘り込んだが、そのまた速力がいやどうも、なみ大抵のものではなかつた。疾風迅雷のやうに走つたので、三十分ばかりの後にはもう西班牙の國境へ到着してゐた。尤も當今は歐羅巴ぢゆうに鐡道が敷設されて、汽船なども途轍もない速力で走る世の中だからなあ。それはさうと、西班牙つて實に不思議なところだ! ひよいと取つつきの部屋へ入ると、頭を毬栗坊主にした人間がうじやうじやゐるんだ。ははん、これは西班牙の大公か兵士なんだなと、おれは推察した。――でなきや、頭を剃つてゐる筈がない。總理大臣がおれの手を執つて案内したが、その扱ひが甚だ怪しからんと思つた。奴はこのおれを小つぽけな部屋へ押し込んでからに、その言ひ草がどうだらう――『さあ、そこにおとなしく坐つとるんだ。これからはフェルヂナンド王だなんて名乘ると、懲《こ》らしめのために毆《ぶ》ちのめされるぞ。』だが、それは試しに過ぎないことを知つてゐたので、おれが奴に逆らふと、總理大臣め棍棒で二度おれの背中を毆りつけをつた。
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