ガウンはすつかり下拵らへも出來て、立派に縫ひあがつた。おれがそれを着たらマヴラの奴がわつと驚ろきの聲をあげた。だが、おれはまだ參内を躊躇《ためら》つてゐる――今だに西班牙から使節がやつて來ないのだ。使節も從へないでは體裁が惡い。第一、おれの身分にいつかう威嚴が添はぬ。おれは今か今かと使節の到來を待ちあぐねてゐるのだ。

   一日
 使節の悠長さ加減にも呆れかへる。一體どんな故障があつて、かう遲れてるのだらう? また佛蘭西が邪魔だてをしてるのかな? 何しろ一番仲の惡い國だからなあ。郵便局まで出掛けて行つて、まだ西班牙から使節は到着してゐないかと訊いてみたが、郵便局長つたら話にならん間拔野郎で、何んにも知りやあがらない。その言ひ草がかうだ。『西班牙の使節なんてものは來てゐませんねえ。しかし手紙が出したいのなら、規定の料金で受けつけますがね。』と。馬鹿にしてやがる! 手紙がなんだい? 手紙なんて、全くくだらないものさ。手紙は藥劑師の書くもので、それも豫め酢で舌を濡《しめ》してから書かないと、顏ぢゆうに疱疹《ぶつぶつ》が出て堪つたものぢやないて。

   マドリッドにて二月三十日
 さ
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