頼するやうにと慰めておいた。何にしても相手は無智蒙昧の民だから、高尚なことを言つたつて分りはしない。マヴラは西班牙の王樣といへば、どれもこれもフィリップ二世のやうな暴君ばかりだと思ひこんでゐればこそ、あんなに吃驚したのだから、おれはフィリップなどとは似ても似つかぬ仁君で、カプシン僧など一人だつて寄せつけはしないからと、よく言ひ聽かせてやつたものだ。役所へは行かなかつた。役所なんか糞くらへだ! ううん、もうその手に乘らないぞ――あんな穢ならしい書類なんか、もう寫してやるもんか!

   三十月八十六日 晝と夜の境
 けふ役所の庶務がやつて來て、もう三週間の餘もサボつてゐるから、いい加減に役所へ出たらどうだと吐かしやがる。
 だが、週間制度などといふ、くだらないものを採用した野郎が間違つてるのさ。あれは猶太の坊主が七日目に一度づつ行水をしなければならないので、猶《ジュウ》奴が發明したものだ。それは兎も角ちよつと洒落に役所へ顏を出した。課長の奴め、定めしおれがペコペコお辭儀をして詑びごとを言ふものと思つてゐたらうが、おれは平氣の平左で、別に怒つてもゐなければ、さうかといつてあまり機嫌のいい顏
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