て餘儀なく姿を隱してゐるのに違ひない。それとも何か他に仔細があるのかも知れん。
十二月八日
よほど役所へ行かうかと思つたが、いろんなことで屈託してゐたため出そびれてしまつた。どうも西班牙の一件がおれの頭から離れない。女が王樣になるなんて法があるものか? 斷じていけない。それに第一、英吉利が默つてゐない。のみならず、これは歐羅巴全體の國際問題だから墺太利の皇帝にしろ、わが國の陛下にしろ……。いやどうも、この一件が妙に氣になつて氣になつて、一日ぢゆうまるきり仕事に手がつかなかつた。マヴラの話では、おれは食事ちゆうもひどくぼんやりしてゐたさうだ。成程さういへば、うつかり皿を二枚、床の上へおつことして、粉微塵にしてしまつたやうだ。食後、山の方へぶらぶら行つてみたが、何の得るところもなかつた。大方は寢臺の上でごろごろしながら、西班牙問題についていろいろ考へた。
二千年 四月 四十三日
けふは大變お目出たい日だ! 西班牙の王樣がゐたのだ。見つかつたんだ。その王樣といふのは――おれなんだ。それもけふ初めて氣がついたといふ譯さ。實際、まるで稻妻のやうに突然それに氣がついたのだ。一體
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