にも、總督に任命されるやら、主計局長に轉補されるやら、それともどんなど偉い官職を授かるやら知れたものぢやないさ。おれは九等官でしかあり得ないなんていふ理由《いはれ》が何處にあるんだ?

   十二月五日
 今日は午前中ずつと新聞ばかり讀んで過した。西班牙では妙な事件が起つてゐる。おれにはどうもそれがよく會得《のみこ》めない。記事によれば何でも、王樣が雲がくれになつたため、王位の繼承者を選ぶことで臣下のものが難局に逢着し、ひいては一般に不穩の空氣が釀成しつつあるといふのだ。どうも奇態きはまる話さ。王樣が雲がくれになるなんて、これは一體どうしたことだらう? 何でもさる婦人貴族が王位を繼承する順序になつてゐるさうだが、女が王位に即くなんて、そんな法つてあるもんぢやない。王位には王樣が坐らなきや嘘だ。『ところが、その王樣になる者がない』といふのだ。けれど、王樣がないままでは濟まされない。一國に國王がゐないなんて法はない。王樣はゐるのだが、何處かに人知れず隱れてゐるだけの話さ。恐らく國のうちにゐるんだが、何か御一門に紛紜《いざこざ》があつてか、それとも隣りあひの強國、たとへば佛蘭西か何處かが怖く
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