あるもので、士族ならまだしもつまらない素町人とか、いやそれどころか、たかが水呑百姓といつた賤しい人間が、何かの彈みで素性がわかると、思ひもよらぬやんごとない貴人だとか、男爵だとか、さういつた素敵もない身分の人間だつたりすることがある……。水呑百姓でさへさうなんだもの、士族のおれからはどんな偉いものが飛び出すか分つたものぢやない。それで、もしこのおれが將官の禮裝でもつけてあの邸へやつて行くとする――そのおれの右の肩にも肩章《エポレット》、左の肩にも肩章《エポレット》、肩からは藍色の大綬章が斜《はす》に掛かつてゐようといふ、りうとした扮裝《いでたち》だつたらどうだろう? あの別嬪がその時どんな音《ね》をあげるだらうなあ? あの父親《おやぢ》は、うちの局長は、いつたい何と言ふかしらん? なかなかどうして、大變な食はせものだからなあ! あいつはマッソンなのさ、正眞正銘のマッソンにきまつてらあ。なんのかんのと、しらばくれてはゐるけれど、大將がマッソンなことは一眼でちやんと睨んでゐらあ――だつて、その證據には、挨拶のために手を差し出す時、指を二本しか出さないぢやないか。なあに、このおれだつて、直ぐ
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