《した》を掃きながら大抵いつでも獨言《ひとりごと》をいつてる下男がゐるの、それの口裏から推量したんだけれど、どうやら近いうちに御婚禮がありさうだわ――何しろ旦那さまは常々、是が非でもソフィーさまを將官か、侍從武官か、それとも大佐くらゐのところへお輿入がさせたい御意向だつたのだからさ……。』
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えい、勝手にしやがれ! おれはもう、とてもこんなものは讀む氣がしない……。何かといへば、やれ侍從だの、やれ將官だのと、聞きたくもないや。ちよつと好ささうなものは何から何まで、みんな侍從武官か將官の懷ろへころげこんでしまふのさ。こちとらが何かちよつぴり幸福《しあはせ》を見つけて、それを手に入れようと思ふと、すぐに侍從だの將官だのが横合から掻つぱらつてしまやがる。忌々しいつたらありやしない! おれも將官になりたい、將官になつて聟の口にありつかうなんて、そんなさもしい下心からでは更々ないが、ただ、おれが將官になつたら、さぞかしあの連中が寄つてたかつて世辭追從や繁文褥禮の限りをつくすだらうから、その醜態が見てやりたいのと、へん、吾輩は君たちなんぞに鼻汁《はな》もひつかけんぞと反り
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