出さずにはゐられないんだつて。』
[#ここで字下げ終わり]
 嘘をつけ、この胸くその惡い狆ころめが! 忌々しいことを吐かしやがつて! なあに、これといふのもみんな傍妬《おかやき》からさ。どいつの差金だか、このおれが知らないとでも言ふのかい? みんな課長の仕業《しわざ》にきまつてゐる。あいつと來たら、このおれを不倶戴天の仇として恨んでやがるんだ――だもんだから事ごとに、おれを陷れよう陷れようにかかつてゐくさるのさ。それは兎も角、まだ一通ここに手紙があるから讀んでみよう。多分これを見たら事情《ことわけ》がはつきりするかも知れん。
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『〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(愛する友)、フィデリ樣、ずゐぶん御無沙汰したけれど許して頂戴ね。あたしこの頃すつかり有頂天になつてたのよ。何とかいふ小説家が、戀は命から二番目のものだつて言つてるの本當に至言だと思ふわ。それにねえ、今お邸の樣子がすつかり變つてしまつたの。この頃は例の侍從武官が毎日いりつぴたりなのよ。ソフィーさまつたら、あの侍從武官に首つたけなんですもの。お父さまも上々の御機嫌なのよ。お邸にグリゴーリイといつて、床
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