碧い眼だと思つてゐるだのと、そんなやうなつまらない話ばかりなの。あたし心の中でさう思つたわ――※[#始め二重括弧、1−2−54]まあ、この方のどこがそんなに好いんだらう、トレゾールと並べたら、こんな侍從武官なんか、てんで比べものにならないぢやないか! ほんとにさ! まるでお月さまと鼈《すつぽん》ほどの違ひだわ! 第一この侍從武官はおそろしくのつぺりした、だだつ廣い顏でさ、その顏のぐるりにまるで黒い手巾《ハンカチ》でも卷きつけたやうな頬髯を生やしてゐるだけなんだけれど、そのトレゾールの方は、顏から口もとがほんとに尋常で、額のまんなかに白い斑《ほし》があるんだもの。それに腰つきなんかもトレゾールと侍從武官では比べものにも何にもなりはしないわ。眼つきにしたつて、應對ぶりや手練手管にしたつて、まるであんなんぢやないわ。ほんたうに大違ひなの! ねえ、〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(いとしいかた)、あたしチェプロフ樣の何處がそんなに好いのか、さつぱり譯がわからないわ。あんな方にどうしてお孃さまはああも夢中になつていらつしやるんでせうねえ?』
[#ここで字下げ終わり]
さうともさうとも
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