2−55]さう仰つしやるなり、ソフィーさまはお居間へ駈けこんでおしまひになつたの。ほんのちよつと間をおいて、そこへ侍從武官が入つていらしつたが、黒い頬髯を生やした、なるほど若いお方で、つかつかと鏡のそばへ近寄つて、ちよつと髮を撫でつけてから、お部屋をぐるりと見まはしなすつたわ。あたしはちよつと唸つておいて、自分の居場所にすわつてゐたの。すると間もなくソフィーさまがお出ましになつて、とても嬉しさうにその方の氣取つた足擦りの御挨拶にお會釋をなさるのよ。あたしはそれを見て見ない振りで何くはぬ顏をして、やはり窓の外へ眼をやつてゐたけれど、それでも首を少し曲げて、一體どんなお話をなさるだらうと、一心に聽耳をたててゐたわ。そしたらさ、どうでせう、〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(あんた!)、まるで他愛もないことばかり話してるのよ! どこかの奧さんが舞踏《ダンス》の何とかいふ型を他の型と間違へただの、ボボフとかいふ男《ひと》は襟飾《ジャボー》をつけた恰好が鸛《こうのとり》そつくりだつたが、その人がもう少しでころげるところだつただの、リディナとかいふ女《ひと》は緑いろの眼をしてゐる癖に自分では
前へ 次へ
全57ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング