おれは人間のことが知りたいのさ、おれには精神的な糧《かて》がほしいんだ――それでもつて魂を養ひ、心を慰めてもらはうと思へば、何だい、こんな馬鹿々々しいことばかり……。何かもう少しましなことでも書いてないか、一枚とばしてやれい!
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『……ソフィーさまは小卓《こづくゑ》に向つて、何やら縫物をしていらつしやる。あたしはまた往來《ゆきき》の人どほりを眺めるのが好きで、窓の外をじつと見てゐると、そこへひよつこり從僕が入つて來て、※[#始め二重括弧、1−2−54]チェプロフ樣のお越しでございます!※[#終り二重括弧、1−2−55]つて言ふの。※[#始め二重括弧、1−2−54]お通しして頂戴!※[#終り二重括弧、1−2−55]と、ソフィーさまは彈んだ聲で仰つしやるなり、矢庭にあたしをお抱きあげになつたわ。※[#始め二重括弧、1−2−54]まあ、メッヂイや、ね、メッヂイ! ここへ今いらつしやる方がどんな方だか、お前に分つてゐたらねえ――栗色髮《ブリュネット》で、侍從武官でさ、そのお眼《めめ》といつたら! 黒目がちの、まるで瑪瑙のやうなお眼《めめ》なんだよ!※[#終り二重括弧、1−
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