いだらうと思ふわ――そのお父さまだつてずゐぶんお背が高く、でつぷりした御恰幅なんだけれどさ。この木偶坊《でくのぼう》はよつぽど圖々しい奴に違ひないわ。だつてあたしが唸つてやつても、知らん顏の半兵衞で、顰めつ面ひとつ見せないのよ! 舌をべろりと出して、大きな耳をだらりと垂れたまま、窓をじろじろ覗きこむんですもの――ほんとに田吾作つたらないわ! でもね、〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(いとしいかた)、かうして、やいのやいのと寄つて來る求愛者《をとこ》たちのうち、どれにもあたしの心臟《ハート》が平氣だとあんた思つて? ところがどうして、さうぢやないの……。ほんとに、あんたが見てくれたらと思ふのだけれど、一匹ね、お隣りの垣根を越えてやつて來る騎士《ナイト》があるのよ、トレゾールつて名前なんだけれど……。まあ、ほんとに 〔ma《マ》 che`re《シェール》〕(いとしいかた)、その犬《ひと》の好いたらしい顏つきといつたら!』
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 ちえつ! くそ面白くもない!……頓痴氣め、よくもぬけぬけとこんなくだらないことばかり書けたものだ! 人間のことが知らして貰ひたいや! 
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