、縮れた一つまみきりの前髮を頭の天邊へ持つて行つて、油で變な渦卷型に固めつけてゐれあ、それでいつぱしのど偉い人間のやうなつもりでゐやあがるんだ。へん、分つてるよ、何故あいつがおれに當りちらすのか、おれにはちやんと分つてるよ。おほかた、おれが格別な好意を寄せられてゐるのに氣がついて、妬ましいんだらう。ふん、あんな奴、唾でもひつかけてやらあ! 七等官がどれだけ偉いんだ! 時計に金鎖をぶらさげたり、三十|留《ルーブリ》もする長靴を注文したからつて、それがなんだい! おれがどこぞの平民の出だとでもいふのかい? おれは仕立屋の出でもなければ、下士官の小伜でもない。かう見えても貴族だぞ。なあに、おれだつて今に出世して見せる。年だつてまだ四十二だ――勤めの方も本當はこれからといふものだ。今に見ろ! おれだつて大佐相當官ぐらゐにはなつて見せるぞ、あはよくばもつと偉くなるかも知れん。さうなつたら、住ひだつて手前なんかよりぐつと立派なのを構へてやるから、へん、自分より他には歴乎《れつき》とした人間は一人もないとでも自惚れてやがるんだらう? なんの、おれにだつてルチェフ仕立ての流行の燕尾服を着せて、手前のし
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