で行つてみた。――ひよつと令孃がお出ましになつて、馬車にお乘りになるところでももう一目をがみたいものと、長いこと待つてみたが、その甲斐もなく、お出ましにはならなかつた。
十一月六日
課長の奴め恐ろしく憤《むく》れをつた。おれが役所へ行くと、傍へ呼びつけやがつて、かうぬかすのだ。『さあ、言ひ給へ、君は抑もどういふ料簡でああいふ眞似をするのだ?』――『何がどうしたと言ふのです? わたくしは何もいたしはしませんよ。』とおれは答へた。『まあ、よくよく考へて見給へ! 君はもう四十の坂を越してるんぢやないか――もう少しは分別がついてもよささうなものだよ。いつたい君は何と心得てゐるんだ? 僕が君のふざけた眞似を何にも知らないとでも思つてるのかね? 君は局長のお孃さんに附き纒つてるといふぢやないか! ふん、ちつとは身のほどを考へて見たがよからう。いつたい君はなんだい! コンマ以下の人間に過ぎないぢやないか。第一、文《もん》なしの素寒貧ときてゐる。せめて、鏡とでも相談してみ給へ――その面《つら》でしやあしやあとよくもそんな眞似が出來たものだ!』ちえつ、箆棒め、顏はといへば、膀胱の氷嚢みたいで
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