てゐるやうなネクタイでもつけさせてみろ、どうして、手前なんぞ足もとへだつて寄りつけるこつちやないぞ! ただ、それだけ懷ろに餘裕《よゆう》のないのが不仕合せといふものさ。

    十一月八日
 芝居へ行つた。露西亞馬鹿『フィラートカ』を演《や》つてゐた。可笑しくて腹の皮を撚つた。それにもう一つ小喜劇があつて、その中で宮内官をあてこすつた面白い小唄をうたつたが、殊に、一人の十四等官をさんざんにやつつけたのがあつて、實に遠慮會釋なく歌はれてゐるので、どうしてあんなものが檢閲を通つたのかと、おれには不思議で堪らなかつた。商人たちのことだつて、彼奴らはみんな詐欺師で、その伜どもは放蕩無頼で身のほど知らずだ、などと露骨にやつつけてゐる。新聞雜誌關係者《ジャーナリスト》についても、やはりとても面白い諷刺詩《クプレット》をうたつて――記者はくさしてばかりをり、作者は讀者に加勢を頼む、などとやつてゐた。近頃は作者もなかなか面白《あぢ》な脚本を書く。おれは芝居にゆくのが好きだ。ほんの少しでも懷ろに小錢があれば、どうしても行かずにはゐられないのだ。ところが、われわれ役人仲間には實に度し難い手合があつて、田
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