らいが関の山であったから、役人の幽霊はカリーンキン橋の向こう側へさえ姿を現わすようになって、あらゆる臆病な人々に多大の恐怖を抱かせたものである。それはさて、われわれはこの徹頭徹尾真実な物語が、幻想的傾向を取るに至った、事実上の原因といっても差支えないくだんの有力者のことをまったく等閑に付していた。第一に公平という義務観念の要求によって述べなければならないのは、哀れなアカーキイ・アカーキエウィッチがめちゃくちゃに叱り飛ばされて、すごすご立ち去ってから間もなく、例の有力者は何かしら悔恨に似た感じを抱いたということである。彼とてもけっして血も涙もない人間ではなかった。ともすれば、官位がそれを表白することを妨げがちであったとはいえ、彼の胸奥にも多くの善心が潜んでいたのである。遠来の友が彼の書斎を出て行くや否や、彼はアカーキイ・アカーキエウィッチのことをじっと考えこんだほどであった。そしてその時以来、ほとんど毎日のように、職責上の叱責にすら耐え得なかったあのアカーキイ・アカーキエウィッチの青ざめた顔が彼の眼前に浮かんだ。あまりにもその官吏のことが気になってならないので、一週間ほど後、彼は思いきっ
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