のついたのであろうが、猟虎《らっこ》のついたのであろうが、綿いれのであろうが、浣熊《あらいぐま》や狐や熊などの毛皮外套であろうが、要するに、およそ人がその身をおおうために考えついた毛皮やなめし皮なら何でも剥ぎ取ってしまうという噂であった。某局の官吏の一人は目のあたりその幽霊の姿を見て、たちどころにそれがアカーキイ・アカーキエウィッチであることを看破した。しかしそのためにかえって非常な恐怖に襲われて、後をも見ずに遮二無二《しゃにむに》、駆け出してしまった。それゆえ、死人の顔をはっきり見とどける訳には行かず、ただ死人が遠くから指でこちらを脅かしているのをみただけであった。かくて、あらゆる方面から、九等官あたりならまだしも、七等官の肩や背中までがしばしば外套を剥ぎとられるので、すっかり感冒の脅威にさらされているという愁訴の声がのべつに聞えてきた。警察では、どんなことがあっても、生きたものであろうが死んだものであろうが、その幽霊を逮捕して、他へのみせしめに、もっとも手きびしい方法で処罰しようという手配がついていて、それがもう少しで成功するところであった。というのはほかでもない、某区の一巡査がキ
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