のかね? 君はいったいどこへやって来たんだ? 手続きというものを知らないのかね? こういう場合にはまず第一、事務課へ願書を提出すべきじゃ。するとそれが主事の手許へ行き、課長のところへ移されて、それから秘書官に廻されるちうと、初めてそれが秘書官の手を経て本官の許へ提出されるのが順序なのじゃ……」
「ですけれど閣下、」とアカーキイ・アカーキエウィッチは、なけなしの勇気をふりしぼると同時に、おそろしく汗だくになったと自ら感じながら口を切った。「閣下、わたくしが、たって御迷惑なお願いをいたしまするのは、じつは、秘書官などと申しまするものは、その……まったく当てにならない連中でございますからで……」
「なに、なに、なんだと?」と、有力者はせきこんで、「君はいったいどこからそんな精神を仕入れてきたのだ? どこからそのような思想を持ってきたのだ? 長官や上長に対して、若い者の間には、何たる不埒《ふらち》な考えが拡がっとることか!」
 有力者はどうやら、アカーキイ・アカーキエウィッチがすでに五十の坂を越しており、したがって、彼を若いということができるとすれば、それは七十にもなる老人と対照した場合に限る
前へ 次へ
全77ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング