ということに気がつかなかったらしい。
「君はそんなことをいったい誰に向かって言っているつもりなんだ? 君の前にいるのがそもそも誰だかわかってるのか? わかってるのか? わかってるのか? さ、どうだ?」
ここで彼は、アカーキイ・アカーキエウィッチならずとも、ぎょっとしたに違いないような威丈高《いたけだか》な声を張りあげながら、どしんと一つ足を踏み鳴らした。アカーキイ・アカーキエウィッチはそのまま気が遠くなり、よろよろとして、全身をわなわなふるわせ始めると、もうどうしても立っていることができなくなってしまった。で、もしもそこへ守衛が駆《か》けつけて、身を支えてくれなかったら、彼は床の上へばったり倒れてしまうところであった。彼はまるで死んだようになって運び出された。ところが、予期以上の効果に気をよくした有力者は、自分の一言でひとりの人間の感覚をさえ麻痺させることができるという考えにすっかり有頂天になり、友人がこれをどんな眼で見ているだろうかと、ちらとそちらを横目で眺めたが、その友人がまったく唖然たる顔つきをして、そのうえ怖気《おじけ》づきかかってさえいる様子を見て取ると、まんざらでもない気
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