部のところへ訴えて出れば、外套を奪った犯人を捜査してくれると言った。アカーキイ・アカーキエウィッチはまったくとり乱した姿で家へ駆け戻った。顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》と後頭部にほんの僅かばかり残っていた髪の毛はすっかりもつれて、脇や胸や、それにズボンが全体に雪だらけになっていた。宿の主婦である老婆は、けたたましく扉を叩く音を聞きつけると、急いで床から跳ね起きて、片方だけ靴を突っかけたまま、それでもたしなみから肌着の胸を押えながら、扉を開けに駆け寄った。しかし扉をあけて、アカーキイ・アカーキエウィッチのその風体《ふうてい》を見ると思わずたじたじと後ずさりをした。彼が一部始終を話すと、老婆はぽんと手をうって、それならまっすぐに本署へ行かなければだめだ、駐在所などではいい加減なことを言って口約束だけはしても、埒《らち》があかない、やはり一番いいのはじかに署長のところへ行くことだ、署長なら、もとうちの炊事婦をしていたアンナというフィンランド女が今あすこの乳母に傭われているので自分も知りあいであり、また、よくこの家の傍を通るのを見かけもするし、日曜には必ず教会へお祈りに
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