とられ、膝頭で尻を蹴られたように感じただけで、雪の上へあお向けに顛倒すると、それきり知覚を失ってしまった。しばらくして意識を取り戻して起ちあがった時には、もう誰もいなかった。彼はその広っぱの寒いこと、外套のなくなっていることを感じて、わめきはじめたが、とうていその声が広場の端までとどくはずはなかった。絶望のあまり彼はひっきりなしにわめきたてながら、広場を横ぎってまっしぐらに交番をめがけて駈け出した。交番の傍らには一人の巡査が例の戟《ほこ》にもたれて佇《たたず》んでいたが、大声でわめきながら遠くからこちらへ走って来るのはいったいどこのどいつだろうと、どうやら好奇心を動かされたらしく、じっと目をこらした。アカーキイ・アカーキエウィッチは巡査のところへ駆けつけると、息ぎれで声もしどろもどろに、君はいねむりなどして注意を怠っているから、人が追剥《おいはぎ》にかかっても知らないでいるんだ、とどなりだした。巡査は、いっこう何も気がつかなかったが、なるほど広場の真中で二人の男があなたを呼びとめたのは知っている、けれど多分あれはお友だちだろうと思ったと答えて、ここでいたずらにぐずぐずいうよりは、明日警
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