の冷肉と、パイと、菓子屋から取った肉饅頭と、それにシャンパンなどで夜食がでた。アカーキイ・アカーキエウィッチはシャンパンを無理やり二杯飲まされた。すると部屋の中がずっと陽気になったような気がし始めたけれど、それでも、もう十二時にはなっているし、とっくに家へ帰らねばならぬ時刻だということは、どうしても忘れることができなかった。そこで彼は、とやかく主人から引きとめられないようにと、こっそり部屋を抜け出して、控室で外套を探したが、それは痛ましくも床の上へ落ちていた。よく振って埃りをすっかり払い落とすと、それを肩にひっかけて、彼は階段を降りて表へ出た。街はそれでもまだ明るかった。界隈《かいわい》の奉公人やいろんな連中の不断の集会所になっている、そこいらあたりの小売りの店はまだあいていた。もう閉めている店もあったが、扉の隙間から長い灯影が洩れているのは、まだ彼らの集《つど》いがひけていないこと――おそらくそれらの召使たちは、彼らの居どころがわからなくて、自分らの主人たちがすっかり当惑しているのをよそに、まだいつもの無駄口や世間話にけりをつけようとしている最中だということを物語っていた。アカーキイ
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