とラシャや裏地に見惚れてから、ていねいにそれを壁にかけたが、今度はそれと較べてみるつもりで、もうすっかりぼろぼろになっている、以前の【半纏《はんてん》】をわざわざ引っぱり出した。それを一目ながめて彼は思わず笑《ふ》き出してしまった――何という似ても似つかぬ相違だろう! それからもずっと長いこと、食事をしたためながらも、例の【半纏】のみじめな現在の身の上を心に思い浮かべては、絶えずくすくす笑っていた。気持よく食事を終ったが、食後ももはやどんな書類にもいっさい筆をとらず、そのまま暗くなるまで、しばらく寝台の上にごろごろしていた。それから、さっさと着換えをして、外套を引っかけると、表へ出た。ところで、くだんの招待主の役人がいったいどこに住んでいたかは、残念ながら、しかと申しあげることができない。記憶力がひどく鈍り、ペテルブルグにある一切のもの、街という街、家という家が、すっかり頭の中で混乱してしまっているので、その中から何なり筋道を立てて引き出すということがはなはだむずかしいのである。それはともかく、少くとも、その役人が市中でも目抜きの場所に住んでおり、従ってアカーキイ・アカーキエウィッチの
前へ 次へ
全77ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング