く気もつかず、いつの間にか、もう役所へ着いていた。守衛室で外套を脱ぐと、それを丹念に検《しら》べてから、よくよく注意をしてくれるようにと守衛に頼んだ。どうして知れたものか、アカーキイ・アカーキエウィッチが新調の外套を着て出勤したこと、例の【半纏《はんてん》】はもうどこにも見当たらないことが、たちまち役所じゅうに知れ渡ってしまった。一同は即刻、アカーキイ・アカーキエウィッチの新しい外套を見に守衛室をさしてどっと押しかけた。そして祝辞を述べたり、お世辞を言ったりし始めたので、こちらは初めのうちこそ、にやにや笑っていたが、しまいにはきまりが悪くさえなった。みんなが彼を取り巻いて、新しい外套のために祝杯をあげなければなるまいとか、少なくとも、一夕《いっせき》、彼等のために夜会を催す必要があるとか言い出した時には、アカーキイ・アカーキエウィッチはすっかりまごついてしまって、いったいどうしたらいいのやら、何と返答したものやら、どう言い逃れたものやら、さっぱり見当がつかなかった。数分の後には彼はもうすっかり赧《あか》くなって、これはけっして新調の外套でも何でもなく、ただの古外套なのだと、あくまで無邪
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