あたりだったら、仕立代だけでも七十五ルーブルはふんだくられるところだと吹聴することを忘れなかった。アカーキイ・アカーキエウィッチはそのことでかれこれペトローヴィッチと議論をする気にはならなかった。それにペトローヴィッチがひろげたがる大風呂敷にはいささかへきえきしていたからでもある。彼は勘定をすますと、ちょっと礼を言ってから早速、新しい外套を着こんで役所へ出かけた。ペトローヴィッチもその後から外へ出ると、往来に立ちどまって、じっといつまでも遠くから外套を眺めていたが、それから今度は、わざわざ横へそれて、曲りくねった路次を通って先廻りをして、また本通りへ出ると、もう一度、反対側から、つまり真正面から自分の仕立てた外套を眺めたものである。一方、アカーキイ・アカーキエウィッチは、ぞくぞくするような気分で浮き立ちながら歩いていた。彼は束《つか》の間《ま》も自分の肩に新しい外套のかかっていることが忘れられず、何度も何度も、こみあげる内心の満足からにやりにやりと笑いをもらしさえした。たしかに好いところが二つあった――一つは温かいことで、今一つは着心地のいいことである。彼は通ってきた路筋などにはまった
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