る裁縫師との截然たる懸隔をその伎倆に示したものと、十二分に自覚しているらしかった。彼は持って来たハンカチ包みから外套を取り出した。(そのハンカチは洗濯屋から届いたばかりのものであったから、彼は手早くそれを折りたたんで、本来の用に立てるべくポケットの中へしまい込んだものである。)彼は外套を取り出すと、さも得意げにそれを見やってから、両手で持ち上げて、アカーキイ・アカーキエウィッチの肩へじつに器用に投げかけた。ついで、ちょっと引っぱって、背中を片手で下へ撫でおろしておいてから、胸を少しはだけた、きざなかっこうにアカーキイ・アカーキエウィッチの身をくるんだので、アカーキイ・アカーキエウィッチは年配の人間らしく、きちんと袖を通そうとした。そこでペトローヴィッチが手伝って袖を通させたが、通してみると、袖のぐあいもよかった。これを要するに、外套は申し分なく、ぴったりと躯《からだ》にあったのである。ペトローヴィッチはそれを機会《しお》に、自分は看板もかけずに狭い裏通りに住んでおり、その上、アカーキイ・アカーキエウィッチとは古い馴染であればこそ、こんなに安く引受けたのであるが、これがもしネフスキー通り
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