十ルーブルを調達したものか? アカーキイ・アカーキエウィッチは考えにも考えた末、少くとも、向こう一年間は日常の経費を節約するほかはないと決心した。毎晩お茶を飲むことをやめ、夜分もローソクを点《とも》さないことにして、もし何かしなければならないことでもあれば、主婦の部屋へ行って、そこのローソクの灯りで仕事をし、街を歩くにも、丸石や鋪石の上はなるだけそっと、用心深く爪立って歩くようにして、靴底が早く磨りへらないように心がけ、また、なるべく下着も洗濯婦《せんたくや》へ出さないようにして、それらを着よごさないために、役所から帰ったら、さっそく脱いで、そのかわりに、ずいぶんな古物で、時の破壊力そのものにさえも慈悲をかけられているような、天にも地にも一枚看板の、木綿《めん》まじりの寛衣《へやぎ》にくるまって過すことにした。正直なところ、こうした切りつめた生活に慣れるということは、彼にとってもさすがに最初のうちはいささか困難であったが、やがてそれにもどうやら馴れて、おいおいうまく行くようになり、毎晩の空腹にすら、彼はすっかり慣れっこになった。けれど、そのかわりにやがて新しい外套ができるという常住不断
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