何か、お前んとこに裁《た》ちぎれがあるじゃろうが……」
「そりゃあ、裁ちぎれは探せばありますよ、布きれは見つかりますがね、」とペトローヴィッチが言った。「でも、縫いつけることができませんや。何しろ、地がすっかりまいってますからねえ。針など通そうものなら――ずだずだになっちゃいますよ。」
「ずだずだになったらなったで、またすぐ補布《つぎ》を当ててもらうさ。」
「だって、補布の当てようがないじゃありませんか、第一もたせるところがありませんや。なにしろ土台が大事ですからねえ。これじゃあラシャとは名ばかりで、風でも吹けば、ばらばらに飛んじゃいまさあ。」
「まあさ、とにかく、ひとつ縫いつけてみておくれ、どうしてそんな、ほんとうにその……」
「いやだめでがす。」と、ペトローヴィッチはそっけなく言いきった。「何ともしょうがありませんよ。まるっきり手のつけようがありませんからねえ。冬、寒い時分になったら、いっそこいつで足巻でもこさえなすったらいいでしょう。靴下だけじゃ温まりませんからねえ。これもあのドイツ人の奴が少しでもよけい金儲けをしようと思って考え出しおったことですがね。(ペトローヴィッチは機会あ
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