手にとると、まずそれをテーブルの上にひろげて、長いことあちらこちら調べていたが、ちょっと首を振ってから、やおら窓のところへ片手をのばして、円い嗅《か》ぎ煙草入れを取った。それにはどこかの将軍の像がついていたが、いったいどういう将軍なのか、それは皆目わからない。というのは、その顔にあたる部分が指ですり剥《は》げて、おまけに四角な紙きれが貼りつけてあったからである。さて、ペトローヴィッチは嗅ぎ煙草を一嗅ぎやると、【半纏《はんてん》】を両手にひろげて、明りに透かして見て、また首を振ったが、それから裏返しにしてみて、もう一度首を振った。そしてふたたび、紙きれの貼りつけてある将軍のついた蓋《ふた》をとって、煙草を一つまみ鼻のところへ持っていってから、蓋を閉じ、煙草入れをしまって、やがてのことにこう言ったものである。「いや、もう繕いはききませんよ、じつにひどいお召物ですて!」
その言葉を聞くと、アカーキイ・アカーキエウィッチの胸はドキンとした。
「どうしてできないんだね、ペトローヴィッチ?」と、まるで子供が物をねだる時のような声で言った。「だって、肩のところが少しすれているだけのことじゃないか。
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