ろどころに赤味を帯びた夕映《ゆふやけ》の条《しま》が輝やいてゐた。野づらには、ちやうど眉の黒い粋《いき》な新造が著る晴著の下着《プラフタ》の縞柄みたいに、畠がつらなつてゐた。さて、件《くだん》のザポロージェ人だが、これが恐ろしく口軽に喋りまくるので、祖父と、それからもうひとり同行に加はつてゐた呑み仲間とは、もしやこの男には悪魔が乗りうつつてゐるのではないかしらと怪しんだくらゐだつた。いつたい、どこで修業して来たものか、その話があまりにも珍妙なため、祖父は何度となく、可笑しさに腸《はらわた》のよれるのを、脇腹を押へてこらへなければならなかつた。だが、先へ進むに従つて野原がだんだん暗くなると、それにつれて、この達者な饒舌家のはなしが、ひどく支離滅裂になつて来た。たうとうしまひには、すつかり口を噤んでしまつて、このわれわれの話し手は、ほんの些細な物音にも、妙にビクビクするやうになつた。
[#ここから4字下げ、折り返して5字下げ]
総帥《ゲトマン》 小露西亜カザック軍の最高の首領で、カザックの中から選ばれてその任に就いたもの。総帥選挙制は、一五九〇年に始まり、一七六四年にエカテリーナ二世に依つ
前へ 次へ
全34ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング