見えるかと思ふと、またパッと燃えたつて、哥薩克の手に捉まへられた波蘭の貴族のやうにブルブル顫へてゐる川の波に反映するのだ。おや橋がある! ※[#始め二重括弧、1−2−54]さあ、ここを渡るのは悪魔の乗つた二輪馬車より他《ほか》にはあるまいて。※[#終わり二重括弧、1−2−55]だが、祖父は大胆にも歩を進めた。そして、人が一服やらうとして嗅煙草入を取り出すのよりてつとり早く、むかふ岸へ渡つてゐた。見れば焚火をかこんでゐるのは一群れの妖怪で、そのみつともいい御面相といつたら、これが他《ほか》の場合だつたら、何を犠牲にしたつて、こんな化物とちかづきになるのは真平だつたらう。しかし、今は是が非でもわたりをつけなくちやならない。そこで祖父は、妖怪どもに向つて馬鹿叮嚀に腰をかがめて、『今晩は、皆の衆!』と挨拶をした。ところが、会釈ひとつ返す奴でもあらうことか、黙りこくつて坐つたまま、何かしら怪しげなものを、しきりに火の中へふり撒いてばかりゐくさる。一つ空いてる場所があつたので、祖父は遠慮会釈なしにそこへ坐りこんだ。だが、その御面相の綺麗な妖怪どもは、依然として黙りこくつてゐる。祖父も何ひとこと言は
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