、1−2−54]阿房《ドゥールニャ》※[#終わり二重括弧、1−2−55]の手合せをしてからでなきや駄目だよ。」
 さてなんとしたものだらう? 哥薩克ともある者が女《あま》つこどもの仲間へ入つて※[#始め二重括弧、1−2−54]阿房《ドゥールニャ》※[#終わり二重括弧、1−2−55]をやるなんて! 祖父は飽くまで潔よしとしなかつたけれど、たうとうしまひに勝負をすることにきめた。そこで骨牌《トランプ》が持ち出されたが、それは、祭司の娘が未来の花聟を占ふ時ぐらゐにしか用ゐないやうな、手垢だらけの薄ぎたない札だつた。
「さあ、よろしいかね!」と、例の妖女《ウェーヂマ》が再び吠えるやうに言つた。「もしお前さんが一度でも勝負に勝てば、帽子はお前さんに返してあげるけれど、三度ともつづけて負けたら、お気の毒だが帽子だけではなしに、お前さんの命もいつしよに、こちらへ貰ひますよ!」
「札を配りやあがれ、耄碌婆あめ! なんとでも、なるやうになるのぢや。」
 そこで骨牌が配られた。祖父は自分の札を手に取つたが――まつたく見るのも厭な、悪い手だ。まるで切札なんか一枚もなく、やつと並札《なみ》の十が上々で、揃札《くつつき》ひとつないのに、妖女《ウェーヂマ》の方では後からあとから二二一《ピャチェリク》ばかり揃へやがる。たうとう負けになつてしまつた! 祖父が負けといふことにきまると同時に、四方八方から馬のやうな、犬のやうな、豚のやうな、さまざまな鳴き声で妖怪どもが※[#始め二重括弧、1−2−54]阿房《ドゥーレン》、阿房《ドゥーレン》、阿房《ドゥーレン》!※[#終わり二重括弧、1−2−55]とほざき立てた。
「ええつ、汝《うぬ》たち悪魔のみうちめ、とつとと消え失せやがればいいに!」指をあてて耳に蓋をしながら、祖父が呶鳴つた。そして心の中で※[#始め二重括弧、1−2−54]さては妖女《ウェーヂマ》め、いかさまをしをつたな、ぢやあ今度はひとつ俺が配つてやらう※[#終わり二重括弧、1−2−55]と考へた。そこで彼は牌を配つて、切札を宣告した。自分の牌を見ると、素晴らしい手で、切札もある。最初のうちはこのうへもない上々の首尾で勝負が進んだ。ところが妖女《ウェーヂマ》め、又もや王牌《キング》入の二二一《ピャチェリク》をならべをつた! 祖父の手は切札ぞろひと来てゐる! 碌々思案もせずに、祖父は王牌《キング》の髭面に素早く切札を叩きつけた。
「おつと、どつこい! それあ哥薩克らしくないやり方だよ! いつたいお前さん、なにで切りなさるのぢや?」
「なにで切るとはなんぢや? いはずと知れた、切札で切つたのぢや!」
「ひよつとしたら、お前さんがたの方ではそれが切札なのかもしれないが、妾たちの方では、さうぢやないんだよ!」
 見れば、なるほどそれは普通《ただ》の牌だ。奇態なこともあるものだ! 今度も負けになつてしまつた。そして妖怪どもは又しても声を張りあげて※[#始め二重括弧、1−2−54]阿房《ドゥーレン》! 阿房《ドゥーレン》!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と喚き立てた。それがために卓子がガタビシ揺れて、骨牌の札が卓子の上で躍りあがつた。祖父は躍起になつて、いよいよ最後の、三囘目の札を配つた。勝負は再び順調に進んだ。妖女《ウェーヂマ》が又しても二二一《ピャチェリク》を揃へた。祖父はそれを殺しておいて、堆牌《やま》から札を取ると、それがどれもこれも切札ばかりだ。「切札!」と叫んで彼は、その札が笊《ざる》のやうに反りかへつたほど力まかせに卓子へ叩きつけた。相手は何にも言はずに普通牌《なみふだ》の八をその上へ重ねて置いた。
「いつたい何で殺さうつてんだ、この古狸め?」
 妖女《ウェーヂマ》は自分の置いた牌《ふだ》を取りあげた。と、その下にあるのは普通牌《なみふだ》の六だつた。
「ちえつ、悪魔め、誤魔化しやあがつて!」さう言つて祖父は腹立ちまぎれに、拳を振りあげて、力まかせに卓子をたたきつけた。だが、まだしも仕合はせなことには、妖女《ウェーヂマ》の手が余り香ばしくなくて、祖父の手に今度はお誂へむきな揃札《くつつき》が出来た。そこで堆牌《やま》から札をめくりにかかつたが、いやもう我慢も出来ないやうな、碌でもないものばかり起きてくるので、祖父はがつかりしてしまつた。ところが堆牌《やま》がすつかりになつてしまつた。彼は、もうかうなれば破れかぶれだとばかりに、六の普通牌《なみふだ》を打つた。と、妖女《ウェーヂマ》がそれを受け取つた。
「おやおや! これあ又、いつたいどうしたといふのぢや? うへつ! なんだかこれあ、少しをかしいぞ!」
 そこで祖父は自分の牌《ふだ》をそつと卓子の下へ匿して十字を切つた。と、どうだらう、持牌《もちふだ》は切札の|A牌《ポイント》に王牌《キング》に兵牌《ジャ
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