、てんでお話にならんよ。あのおいぼれつたら、いつもの伝で、聞いて聞かぬ振りをしてるのさ。何を言つても取りあげないばかりか、あべこべに、おれが碌でもないところをほつつきまはつたり、仲間と往来で無茶な真似ばかりしてると言つて、さんざ毒づくのさ。だが何も心配することあねえよ、ハーリャ! おれは哥薩克魂に誓つて、きつと親爺を説き伏せて見せるから。」
「ええ、さうよ、レヴコー、あなたがさう仰つしやりさへすれば、屹度あなたの言葉どほりになるんですもの。あたし自分の身に覚えがあつて、よく分るの。ひよつとしたらあなたの言ひなりにはなるまいと思つたりするやうな時でも、あなたの言葉をきくと、ついうかうかとあなたの言ひなりになつてしまふんですもの。まあ、ちよいと!」女は男の肩に顔を凭せかけたまま、二人の前の桜の樹のいりくんだ枝に、ちやうど下から網を張つたやうに蔽はれた、暖かいウクライナの空の、果しなく青ずむ方へ眼をあげながらつづけた。「御覧なさいつたら、そうらね、遠くの方でお星さまがキラキラしばたたいてゐるでしよ、ひい、ふう、みい、よう、いつ……。あれはほんとに神様の天使《みつかひ》たちが、天にあるめいめい
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