だらう?」
「まあ、あなたに倦きが来るなんて、そんなことないわ。」娘は微笑んで言つた。「あたし、あなたがとても好きなのよ。いなせな黒眉の哥薩克さん! あなたの、その鳶いろの眼が、あたし大好きなの。その眼であなたに見られると、ほんとに魂の底からにつこりさせられるやうに思へて、ぞくぞくするほど好い気持ちなの。それからあなたの、その黒い口髭の動く具合が、とても可愛いわ。あなたがおもてを歩いたり、歌を唄つたり、バンドゥーラを弾いたりするのを聴いてるのが、ほんとにあたし好きなのよ。」
「ああ、おれのハーリャ!」さう叫びざま、若者は娘を接吻して、一層ひしと自分の胸へ抱きすくめた。
「まあ、待つてよ! ちよいと、レヴコー! それよりか、あなた、あの、お父さんにお話しなすつて?」
「何をさ?」と、夢からでも醒めたやうに男は言つた。「ああ、おれがお前と結婚したいと思つて、お前もそれに賛成してるつてことかい? ああ話したよ。」だが、この※[#始め二重括弧、1−2−54]話したよ※[#終わり二重括弧、1−2−55]といふ一語は、彼の唇のうへで妙に憂鬱な響きを立てた。
「それで、どうでしたの?」
「親爺なんか
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