つた眼をじつと男にそそぎながら、おづおづとハンナが遮ぎつた。
「妖女《ウェーヂマ》かい? 婆さん連の想像《おもひつき》では、その時からこつち、月夜の晩には、これまでにこの池へ身投げをした水死女たちが、みんな揃つてあの邸の庭へあがつて、月の光りで日向ぼつこをするんださうだが、百人長《ソートニック》の娘はそのかしらに立てられてるつてことだよ。なんでも、或る晩のこと、ふと、池のほとりにゐる継母を見つけると、彼女は不意に躍りかかつて、喚き声もろとも水のなかへ曳きずりこんでしまつたとさ。ところが、妖女《ウェーヂマ》はさすがに尻尾をみせないや。彼女は水底《みづぞこ》で水死女のひとりに化けてしまつたのだ。さうして、水死女たちが彼女を打ちのめさうと身構へてゐた若蘆の笞をまんまとのがれたといふのさ。女房《かみさん》連のいふことを真《ま》にうけての話だよ! まだこんなことも言つてるのさ――令嬢《パンノチカ》は来る夜も来る夜も水死女たちをひとところへ集めて、そのうちどれが妖女《ウェーヂマ》なのかを見わけようものと焦つて、ひとりひとりの顔をしげしげと覗きこむのだが、今だにそれが分らないつてことだ。それで、だれ
前へ
次へ
全74ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング