、奥へはもう一歩も足踏みをさせられなかつた。可哀さうに、娘にはそれが何より辛かつたけれど、どうすることも出来なかつた。彼女は父のいひなりになつてゐた。五日めになると百人長《ソートニック》は、途中の用意に麺麭ひとかけ与へないで、裸足のままの娘を家から追ひ出してしまつた。その時、令嬢《パンノチカ》は白い顔を両手でおさへながら、恨めしさうにかう言つて泣くよりほかはなかつた。『お父さま、あなたはこの生みの娘を台なしにしておしまひになりました! あの妖女《ウェーヂマ》があなたの罪ぶかい魂を滅ぼしてしまつたのです! どうか神様があなたをお赦しになりますやうに、でも薄倖《ふしあはせ》なあたしは、もうこの世に永らへることができません……。』――そこで、ほら、あすこに見えるだらう?……」さう言つて、レヴコーは館の方を指さしながら、ハンナを振りかへつた。「こつちの方を見て御覧よ、ほら、あの家から少しはなれた、一番小高い岸だよ! あの岸から、その令嬢《パンノチカ》は水のなかへ身投げをしたのだよ。そして、それつきりこの世へは戻つて来なかつたのさ……。」
「で、その妖女《ウェーヂマ》は?」と、涙のいつぱいにたま
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