]小麦※[#終わり二重括弧、1−2−55]といふ声が聞えた。その魔術的な一語を耳にするとともに、父親は知らず知らず、大声で話しあつてゐる二人の商人《あきんど》のそばへ、ふらふらと近よつて行つて、その方へ気をとられてしまつた彼の注意は、もはや何物を以つてしても引き戻す術がなかつた。さて、その商人どもが語りあつてゐた小麦の話といふのは、かうだ。

      三

[#ここから8字下げ、34字詰め]
見ろやい、豪気な若い衆ぢやねえか? あんなのあ、まつたく珍らしいや、火酒《シウーハ》を麦酒《ブラーガ》のやうにがぶがぶやりをるぜ!
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]――*コトゥリャレフスキイ『エニェイーダ』より――
[#ここから4字下げ、折り返して5字下げ]
コトゥリャレフスキイ イワン・ペトッロー※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ(1769―1838)ゴーゴリ以前の小露西亜の代表的な作家で小露西亜文学の一時期を画せし人。
[#ここで字下げ終わり]

「ぢやあお前《めえ》さんは、なんだね、おらたちの小麦がとても旨く捌けねえと思ひなさるだね?」と何処か小さな町からでもやつて
前へ 次へ
全71ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング