来たらしい、風来の町人といつた容子の、樹脂《タール》で汚れて脂じんだ縞の寛袴《シャロワールイ》を穿いた男が、もう一人の、ところどころに補布《つぎ》の当つた青い長上衣《スヰートカ》を著た、お額《でこ》に大きな瘤のある男に向つて言つた。
「何も考へるがものあねえだよ、おいらあ、なんだて、万に一つもこちとらの小麦が、たとひ一升ぽつきりでも捌けようものなら、この木に縄をかけて、降誕祭まへに屋根にぶらさげる腸詰みてえに、首をおつ縊つて見せるだよ。」
「人を誤魔化さうつたつて駄目なことよ! それだつて、おいら達より他にやあ、からつきし持ちこんだ者あ無《ね》えでねえか。」さう、縞の寛袴《シャロワールイ》を穿いた男が反駁した。
※[#始め二重括弧、1−2−54]ふん、勝手に好きなことをほざきあつてろだ、※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、この二人の卸売商人の会話を一言半句も聞き漏さずにゐた、くだんの美女の父親は肚のなかで呟やいた。※[#始め二重括弧、1−2−54]ところが、おいらのとこにやあ十袋から持ち合せがあるだに。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
「やつぱり、なんだなあ、悪魔の手のかかつた
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