ると、そこには例の白い長上衣《スヰートカ》を着た、眼もとのすずしい若者が突つ立つてゐた。彼女はぎくりとした。同時に、今までどんな歓びにもどんな悲しみにも、つひぞ覚えたことのないほど、胸がわくわくと躍りだした。それがまた彼女にはなんともいへぬ好い心持で、いつたい自分はどうしたといふのか、さつぱり理由《わけ》がわからなかつた。
「怖がらなくつてもいいよ、ね、怖がらなくつてもさ!」若者は娘の手をとつて、小声で言つた。「別に俺《おい》らは、お前《めえ》にいんねんをつけようといふんぢやねえからさ!」
※[#始め二重括弧、1−2−54]多分、あんたが、別段あたしに悪い言ひがかりをするのでないことは、ほんたうだらうよ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう美人は胸のなかで思つた。※[#始め二重括弧、1−2−54]でも変だわ……屹度この人は悪魔よ! だつて、あたし自分でちやんと、いけないとわかつてゐながら……どうしてもこの人から手を引つ込めることが出来ないんだもの。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 ふと父親は娘を振りかへつて、何か言はうとしたが、その時、片方から※[#始め二重括弧、1−2−54
前へ 次へ
全71ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング