やく》にはもう疾の昔から馴れつこになつてゐたので、依怙地に黙りこくつて、いきり立つ女房の取りのぼせた言葉にはまるで取り合はなかつた。それでも女房《かみさん》の性懲りもない舌の根は、彼等が目ざして来た市《まち》の近くの、古馴染で教父《なづけおや》に当つてゐるツイブーリャといふ哥薩克の家へ到着するまで、ぶつぶつと小やみもなく口の中で呟やきどほしだつた。この家の人々と久しぶりに対面して、暫らくその不快な出来ごとを頭から払ひのけた一行は、定期市《ヤールマルカ》の取沙汰などをしながら、長い道中の後でひと休みした。

      二

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いつたいこの定期市《ヤールマルカ》に何ひとつ無いといふ品があるだらうか! 車輪《くるま》に硝子に樹脂《タール》に煙草、帯革、玉葱、そのほか百姓道具が一式……これでは財布に三十両あつても、市《いち》の品ひと通り買ふことは出来まい。
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[#地から3字上げ]――小露西亜喜劇より――

 諸君は多分、どこかで滝のおちる音を遠くから聞かれたことがあるだらう、あたりは轟々たる水音に震駭されて、不思議な、はつきりしない響
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