くのにどれだけ襤褸くづをつかつたら堪能ができるのだらう! 貴賤の別なく猫や杓子までが見やう見真似で、やたら無性に墨汁へ指を突つこんでも突つこんでも、まだ足りないのだ! あげくの果てには、こんなどこの馬の骨とも分らない蜜蜂飼風情までが、柄にもなく変な野心をおこすのだ! まつたく、かう碌でもない活版刷の反古ばかり矢鱈に殖えた日には、一体これをなんの包み紙につかつたものやら、おいそれと考へつくことも出来やしない。』
かういつた横槍が飛び出すだらうとは、もう一と月も前から、ちやんと感づいてゐたことなんで! いや、まつたくこちとらのやうな田舎ものにとつては、この井の中から世間さまへ顔を突きだすといふことが――どうもはや!――よくある奴で、ちやうど立派な旦那がたのお邸へ戸惑ひして足をふんごんだのと頓とひとつで、人々がぐるりをとりまいて直ぐにからかひだす。それも奥むきの奉公人ででもあらうことか――ぼろぼろの服装《なり》をして裏庭で土いぢりでもしてゐさうな小穢ならしい小僧つ児までがいつしよになつて、四方八方から足を踏みならしながら、がなりだす。『何処へのこのこと迷ひこんで来やがるのだ? いつたい何を
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