た雀どもが、驚ろいて空へたちあがつたくらゐだつた。だが、爺さん、何の眠つてなぞゐるものか! いふまでもないこと――あの狡い悪党つたら――神よ、希くば彼に天国を与へ給へ!――いつでも、うまく誤魔化してしまふのだ。でなきやあ、歯の浮くやうな唄をうたひ出して、取りあはうともしないのだ。
 その翌る日、野良が、うつすら白みかけるが早いか、祖父は長上衣《スヰートカ》を著て、帯をぎゆつと緊め、鋤とシャベルを小脇に、帽子を頭にかぶつてから、濁麦酒《クワス》を一杯ひつかけると、その口を着物の裾で押し拭つて、真直ぐに祭司の野菜畑をさして出かけた。やがて籬も、長《たけ》の低い樫の林もとほり過ぎた。木立のあひだを縫ふやうに小径がうねつて原へ通じてゐる。どうやら、くだんの小径らしい。果して原つぱへ出た。正しく昨日と同じ場所で、やはり鳩舎が頭を出してゐるが、しかし、藁小屋が見えぬ。※[#始め二重括弧、1−2−54]いや、これは場所が異ふぞ。或は、もう少し先きぢやつたかもしれん。藁小屋の方へ曲らにやならなかつたのぢや!※[#終わり二重括弧、1−2−55]で、後へ引つ返して、もう一つの小径について歩き出した――と、
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