その場でイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの両手をいやといふほど鞭打つた。――いかさま揚煎餅《ブリーン》を受け取つたのはその手で、からだの他の部分には罪がないとでもいふのだらう。それは兎も角、このことがあつて以来、それでなくても生まれつき小胆な彼に、なほさら臆病風が染みこんでしまつたのだ。恐らくこの事件そのものが因を成して、後年、彼をして絶対に役所勤めに入らうといふ望みを起させなかつたものに違ひない――この経験から、誤魔化といふことの難かしさをつくづく悟つたがために。
彼が二学年に進級して、それまでの簡易釈義書や四則算の代りに、詳細釈義書だの、修身だの分数だのを習ひかかつた時には、年ももう満十五歳になつてゐた。だが、深く進めば進むほどいよいよ学課は煩瑣になるばかりだつたし、ちやうど、父の訃報にも接したりしたので、それからあと二年のあひだ在学してから、母の諒解を得て、P××歩兵聯隊へ入隊した。
このP××歩兵聯隊は、他の多くの歩兵聯隊が属してゐる類ひとは全く趣きを異にして、たいてい村落に駐屯してゐたにも拘らず、へたな騎兵聯隊などの及びもつかぬくらゐ、素晴らし
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